Marta_007

・テキスト

8頁10行目から

La infano mallaŭte parolis tiujn vortojn, kaŝante sian vizaĝeton en la faldoj de la funebra vesto de la patrino, per sia tuta korpeto alpremante sin al ŝiaj genuoj. Videble eĉ sur tiu infana koro la rememoroj montris jam sian forton, premante ĝin per senkonscia doloro.El la ĝis nun sekaj okuloj de la virino elfluis du grandaj larmoj; la momento, kiun revokis en ŝian memoron la vortoj de la infano, momento, kiu iam perdiĝis en miliono da similaj ĉiutagaj, ekridetis nun al la malfeliĉulino kun ĉarma maldolĉeco de perdita paradizo.Povas esti, ke ŝi ankaŭ ekpensis pri tio, ke la libereco kaj gajeco de tiu momento alportis al ŝi hodiaŭ perdon de unu el la lastaj pecoj da pano, kiuj restis al ŝi kaj al ŝia infano, kaj morgaŭ alportos al ŝi malsaton; la inka makulo, kiu naskiĝis meze de ridado de la infano kaj kisoj de la gepatroj, deprenis unu aŭ du spesmilojn de la valoro de la meblaĵo. Post la skribtablo aperis sur la korto bela fortepiano, sed la virino en funebra vesto akompanis ĝin jam per rigardo pli indiferenta. Videble ŝi tute ne estis artistino, la muzika instrumento vekis en ŝi malplej da bedaŭroj kaj rememoroj; sed malgranda mahagona liteto kun kovrilo el kolora brodlano, kiam oni ĝin elportis el la domo kaj starigis sur la ŝarĝveturilo, alforĝis al si la rigardon de la patrino, plenigis per larmoj la okulojn de la infano.

— Mia liteto, panjo! — ekkriis la knabineto, — tiuj homoj forprenas ankaŭ mian liteton, kaj ankaŭ tiun kovrileton, kiun vi mem al mi faris! Reprenu, panjo, de ili mian liteton kaj la kovrileton.

La tuta respondo de la virino konsistis nur en tio, ke ŝi pli forte alpremis al la genuoj la kapon de la ploranta infano; ŝiaj nigraj, belaj, iom enfalintaj okuloj estis denove sekaj, la pala delikata buŝo estis fermita kaj silenta.

Tiu bela infana liteto estis jam la lasta el la elportitaj meblaĵoj. Oni malfermis en la plena larĝo la pordegon, la veturiloj ŝarĝitaj per la meblaĵoj enveturis en la belan straton, post ili foriris la portistoj, tenante sur la ŝultroj la reston de la ŝarĝoj, kaj malantaŭ la najbaraj fenestroj malaperis la homaj kapoj, kiuj ĝis nun scivole elrigardis sur la korton.

・訳

(UK

幼児は顔を母親の喪服のひだに隠して体全体を膝に押し付けながらそうささやいた。明らかにそれらの思い出は幼児の心にさえ知らず知らずに痛みを感じさせるほど力を誇示しているのだ。それまで乾いていた女性の目から二粒の大きな涙が流れ出た;あの瞬間、それをその幼児の言葉が彼女の記憶の中に呼び起こした、瞬間、その瞬間は数えきれない似たような日常の中でいつしか消えていったが、失われた楽園の魅惑的な苦さと共にその不幸な女性に対していま微笑み始めたのだ。それについて彼女はこんな風に考えたかもしれない。その瞬間、自由で陽気であったことが今日は彼女と幼児に残されたなけなしのパンのかけらをさらに減らし明日は彼女を飢えさせるだろうと。幼児の笑いと両親のキスのさなかに生まれたインクの染みがその家具の価値を1000か2000スペーソ分損ねてしまったのだから。その書斎机の後に美しいフォルテピアノが中庭に現れたが、しかし喪服に包まれた女性はそれにはより無関心な視線を這わせただけだった。見ての通り、彼女は全く芸術家ではなかった。その楽器は彼女の中に最小限の残念な気持と思い出を呼び起こしただけである。しかしマホガニーの色刺繍の毛布がついた小さなベッドは、人々がそれを家から運び出して貨物自動車の上に乗せた時、母親の視線を釘付けにし、幼児の目を涙で一杯にした。

「私のベッド、お母さん!」女の子が叫んだ。「あの人たちは私のベッドも、お母さんが私のために作ってくれた毛布も持って行ってしまう!取り返してよ、お母さん、私のベッドと毛布を。」

その女性のすべての答えは、その泣いている子の頭をより強く膝に押し付けることでしかなかった;彼女の黒い、美しい、いくらか落ちくぼんだ眼は再び乾き、薄い色の繊細な口は閉じられ黙っていた。

その幼児の美しいベッドはすでに持ち出される家具の最後のものだった。人々は門を一杯に開き、家具を搭載した貨物自動車は美しい通りの中に入っていった。その後に荷物の残りを肩に担いで運搬人たちが立ち去った。そして近所の窓の背後からはこれまで好奇心で中庭を見ていた人々の頭が消えて行った。

・経過

1.   La infano mallaŭte parolis tiujn vortojn, kaŝante sian vizaĝeton en la faldoj de la funebra vesto de la patrino, per sia tuta korpeto alpremante sin al ŝiaj genuoj.

(UK
その子は、自分の小さな顔を母親の喪服の襞に隠し、小さな体全体で自分を彼女の膝に押し付けながら、小声でそれらの言葉を口にした。
(TM
しっかり、誰が誰のをどうしたと訳してあります。が、もっと流れるような訳文にできないでしょうか。
UK
幼児は顔を母親の喪服のひだに隠して体全体を膝に押し付けながらそうささやいた。

2.   Videble eĉ sur tiu infana koro la rememoroj montris jam sian forton, premante ĝin per senkonscia doloro.

UK
明らかにその幼児の心の上にさえ、その思い出は無意識の痛みでその子を押し付けながら、すでに己の力を示していた。
(TM
それらの思い出(複数)  * 当初、私はその子の強い感情・性格が無意識に表れている…と思いましたが、思い出が主語なんですね。 それが子供を圧迫しているのですね。わかりにくい文だなあ!
UK
明らかにそれらの思い出は幼児の心にさえ知らず知らずに痛みを感じさせるほど力を誇示しているのだ。

3.   El la ĝis nun sekaj okuloj de la virino elfluis du grandaj larmoj;
la momento, kiun revokis en ŝian memoron la vortoj de la infano,
momento, kiu iam perdiĝis en miliono da similaj ĉiutagaj, ekridetis nun al la malfeliĉulino kun ĉarma maldolĉeco de perdita paradizo.

UK
それまで乾いていた女性の目から二粒の大きな涙が流れ出た;
あの瞬間、それをその幼児の言葉が彼女の記憶の中に呼び起こした、
瞬間、それは数えきれない似たような日常の中にいつしか埋もれていたが、失われた楽園の魅惑的な苦さと共にその不幸な女性に向かっていま微笑み始めた。
(TM
消えていった

(UK)
*la momento=両親が幼児を取り合ったときに幼児がインクをこぼした瞬間

(UK)
質問: 次のmomentoにlaがついていないのはなぜでしょう?
     2番目のmomentoはあの瞬間だけでなく、一般的に「そういう瞬間ってあるもんだよね」言っているのでしょうか?
(TM)
そうですね、もう消えたしまった「その瞬間、その瞬間」が(皮肉っぽく)微笑み始めた→「皮肉に笑い始めた」
(UK)
瞬間、その瞬間は数えきれない似たような日常の中でいつしか消えていったが、失われた楽園の魅惑的な苦さと共にその不幸な女性に対していま皮肉に笑い始めたのだ。
(AM)
「皮肉に」という単語はどこにありますか。
(UK)
たしかに「皮肉」を表す語はないですね。改めて修正しました。ただ皮肉にとつけると意味が通じていたのがわからなくなりました。
インクをこぼすに至った経緯は実に楽しい記憶
→今まで忘れていたがその子の言葉で思い出した
→その思い出は本来は楽しいもの、微笑ましいもの
→今のような状況でなければ
ああ、わかりました。通じました。だからなお辛いようです。

(TM)
 rideti    の意味の中に” 皮肉っぽく笑う、 苦笑する” もあったので場面を考えてそうしました。 運命が違った方向に行く開始になるかなと。
(UK)
わかりました。cinike ridetiですね。

JEIの辞書から
+rid|et|i
自・線 ほほえむ, 微笑する, にっこりする; 苦笑する: dolĉe[malĝoje/cinike] rideti 優しく[悲しげに/皮肉っぽく]笑う / rideti amare 苦笑する / La bebo ridetis al la patrino. 赤ちゃんは母親をみてにっこりした / Ĉiuj ridetu al la fotilo! みんなカメラに向かってにっこりして.

こうしてみると、ridetiは素直に「ほほえむ, 微笑する, にっこりする」として、苦笑する、皮肉っぽく笑うには何か付け足した方が誤解がなさそうですね。
「皮肉っぽく笑う」だとすんなり状況が理解でき、ただ「ほほえむ」だと理解困難だったので即採用させてもらいました。

しかし、よく考えてみると、その時の状況が素直にほほえみかけてきていても、この状況ではそれが皮肉になりますね。
思い出してみればあんなに楽しかったことが全部失なわれて、それに追い打ちをかけて、大事なお金を失わせる原因になった、と。
(AM)
ー楽園を失って悲嘆にくれている彼女に今微笑みかけてきた、数々の日々の中に消えていった瞬間が、彼女に涙を溢れさせた、と考えるとよいのでは。

4.   Povas esti, ke ŝi ankaŭ ekpensis pri tio,
ke la libereco kaj gajeco de tiu momento alportis al ŝi
hodiaŭ perdon de unu el la lastaj pecoj da pano, kiuj restis al ŝi kaj al ŝia infano,
kaj morgaŭ alportos al ŝi malsaton; la inka makulo,
kiu naskiĝis meze de ridado de la infano kaj kisoj de la gepatroj, deprenis unu aŭ du spesmilojn de la valoro de la meblaĵo.

UK
そのことについて彼女はこんなことを考え始めたかもしれない;
あの瞬間の自由さと陽気さが
(TM
その瞬間
UK
今日は彼女とその子に残された最後のパンのかけらのうちの一つを失わせるという結果を彼女にもたらし、
明日は彼女に飢えをもたらすだろうと。
その子の笑いとその両親のキスの最中に生まれたそのインクの染みはその家具の価値を千か二千スペスミーロ分り去ったのだ。
(TM)
その・・・はいくつかは省略できませんか?
1000または2000スペーソ
UK
それについて彼女はこんな風に考えたかもしれない。
その瞬間、自由で陽気であったことが
今日は彼女と幼児に残されたなけなしのパンのかけらをさらに減らし
明日は彼女を飢えさせるだろうと。
幼児の笑いと両親のキスのさなかに生まれたインクの染みがその家具の価値を1000または2000スペーソ分損ねてしまったのだから。 

5.   Videble ŝi tute ne estis artistino, la muzika instrumento vekis en ŝi malplej da bedaŭroj kaj rememoroj;
sed malgranda mahagona liteto kun kovrilo el kolora brodlano,
kiam oni ĝin elportis el la domo kaj starigis sur la ŝarĝveturilo,
alforĝis al si la rigardon de la patrino,
plenigis per larmoj la okulojn de la infano.

UK
明らかに彼女は全く芸術家ではない。その楽器は彼女の中にほとんど惜しむ気持ちも追憶も呼び起こさない;
(TM
見ての通り、彼女は全く芸術家ではなかった。  その楽器は~最低限の~を呼び起こした。  *否定が続くのは強い感じがするので肯定文にしました
UK
見ての通り、彼女は全く芸術家ではなかった。その楽器は彼女の中に最小限の残念な気持と思い出を呼び起こしただけである。
UK
しかしマホガニーの色物の刺繍ウール糸でできたカバーのついた小さなベッドは、
人々がそれを家から運び出し、貨物自動車に置いた時、
その母親の視線を釘付けにし、
その子の目を涙で一杯にした。

UK
質問:brodlano 刺繍用ウール糸?
(TM
kovliro ・・ 掛け布団、毛布、ともあります。「刺繡の毛布」くらいでいいのでは。布団にカバーをしていた時代だったか?
UK
lanbrodo ウール糸による刺繍、ウール刺繍
(TM
ウールの毛布に刺繡をするとなると絹糸ではなく糸もウールでないと。
UK
 この場面では「刺繡をほどこした布でできたカバー」が自然な気がしますが、
 kovrilo el kolora brodlanoとあるので「色のついた刺繍用ウール糸でできたカバー」になりますか?
UK
しかしマホガニーの色刺繍の毛布がついた小さなベッドは、
人々がそれを家から運び出して貨物自動車の上に乗せた時、
早親の視線を釘付けにし、
幼児の目を涙で一杯にした。
(TM
1カ所、「母親」の文字が「早親」となっています。 訂正お願いします。
UK
ほんとだ。
母親の視線を釘付けにし

6.   — Mia liteto, panjo! — ekkriis la knabineto, — tiuj homoj forprenas ankaŭ mian liteton, kaj ankaŭ tiun kovrileton, kiun vi mem al mi faris!
Reprenu, panjo, de ili mian liteton kaj la kovrileton.

UK
「私のベッド、お母さん!」小さな女の子が叫んだ。「あの人たちは私のベッドも、お母さんが自分で私のために作ってくれたカバーも持って行ってしまう。
(TM
「私のために作ってくれたかけ布団(毛布)」でよいのでは。
UK
お母さん、私のベッドとカバーをあのひとたちから取り返してよ。」
UK
質問:ここだけinfanoではなくknabnetoになっています。なぜでしょうか?
    自己主張をしているので幼児から一段格上げしているのでしょうか? 
(TM
*そうですね、母親の陰で小声で話していた子供が叫んだのだから! UKさん、読みが深い!

(AM
日本語の文章では、一度一人の人を例えば「青年」と呼んだら、ずっと「青年」で通す、という暗黙のルールがありますが、例えば英語などでは、同じ人物を指すのに、文全体の中で様々な言い方で呼ぶことが普段に行われます。「あの若いやつ」「麗しき獣」などと。だから文章中の人間関係を正確に把握しないと、何が何やらわからなくなることがあります。文学作品では頻繁ですが、ふだんの会話でも文脈についていって、誰を指しているのか、なんのことを言っているのか、見極める必要に迫られることがあります。英語やエスペラントでは定冠詞の使用があるからどれがどれか判別できるのでしょう。 「麗しき獣」などといっても定冠詞the, la が付いていれば、「ああ、例の奴の事か」と分かりますから。
UK
それでますますわかりにくくなるんですね。
この子についてはinfano, knabineto, Janjoの3種類だけのようです。infanoとknabinetoではinfanoの方が多いようです。
(AM
ー文章中で一人の人物に様々な呼称を使う、というのは、英語の文章術では薦められることだといいます。のべつ一語だけで通すのは、洗練されていないということらしいです。英語圏では読書会とか創作学科というのが盛んのようです。マルタの作者は英語圏の人ではないですが、ものを書く人は何語を使おうとも自分の背景を背負って書くことになるのでしょうね。そう考えると、カズオ イシグロさんは興味深い人物です。
UK
「私のベッド、お母さん!」女の子が叫んだ。「あの人たちは私のベッドも、お母さんが私のために作ってくれた毛布も持って行ってしまう!
取り返してよ、お母さん、私のベッドと毛布を。」

物語中のお金の価値について

(UK)
(全文からspesを含む単語を検索してみました。ネタばれになると思われる箇所を3件ほど省略しました。)

spesmilo
・父親の書斎机はインクの汚れによって1000から2000 spesmiloj値打ちが下がったと思われる。
・家具を売り借金を払い夫の葬式を済ませて 数10 spesmilojと若干の服が残った。
・(家庭教師斡旋所で)フランス人の家庭教師の封筒には年俸600 spesmilojの金額があり、なんと豊かな!と感じた。
・(家庭教師斡旋所で)年俸400spesmilojならJanjoを手元におけると思った。
・(家庭教師斡旋所で)子どもをどこかに預けるなら年俸150 spesmilojの職が見つかるかもしれない。
・Janjoに毎日食べ物を届けてもらうには週1.5spesmilojの支払いが必要。30 spesmilojしか持っていないマルタには大きすぎる。
・彼女は小部屋とその家具の1か月の賃料として4spesmiloj支払った。
・初級のフランス語のレッスンで1日あたり0.5spesmilojもらえる。
・(しばらくフランス語を教えてみて、自分には教える力がないと報酬を辞退したマルタを追いかけて夫人が手渡した)封筒には3枚の5spesmiloj札が入っていた。
・住居+家具2か月分の借金7spesmiloj、店に3spesmilojの借金、毛皮を売って15spesmilojの収入。
・翻訳の仕事は1件あたり(数週間の仕事だろう)100spesmiloj、腕が認められれば他の仕事も来る。
・仕事は認められなかったが書店から店主の情けで6spesmilojを受け取った。
・マルタの結婚指輪が3.5spesmiloj
・指輪のデザインの報酬が0.5spesmiloj(職はもらえなかった)
・(省略)
・(高級ブティックでプレゼント用の買い物をする男)絨毯に45spesmiloj, 籠(どんな籠?)に75spesmilo, 陶器の花瓶に30spesmilo、…
・(省略)
 
spescento
 使用例なし
 
spesdeko
・手元に残ったいくらかのspesdekojで彼女はバター、(上質の)小麦粉、小さなやかんを買った。
 買い物の後残った硬貨を数えると40spesdekoj残っていた。
・初心者向けフランス語家庭教師 時給20spesdekoj,最大で30spesdekoj。
・縫製工場で1日10時間労働で20spesdekoj。
・働いている間幼児を見守ってもらうために1日5spesdekoj, 幼児のパンとミルクで7.5spesdekoj、自分の昼食に7.5spesdekoj, 残り0。
・マルタのポケットには15spesdekojの硬貨が残っていた。
・(省略)

speso
 使用例なし

Marta_006    Marta_008☞  

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